① 顎関節の構造について
- ヒトの下あごは頭蓋の耳孔の前方にある関節の凹みに関節円板(組成は軟骨)を介在してブランコのようにぶらさがっています。
- 重要な筋肉は噛みしめる時に働く咬筋・下あごを前方に突き出す外側翼突筋・咀嚼時主に働く側頭筋が有ります。
- 関節円板(ディスクと呼びます)はおなじみコラーゲンで、できていてコリコリしてて捕まえにくく、又、摩耗・変形します。大切なことは通常のレントゲン撮影では映らないので、顎関節に異常が認められてもその実態がよくわからない事なのです。
- 図-3に示すように、右側でものを咬む運動が生じた場合、
①左側の外側翼突筋が収縮して下あごを右方にシフトさせます。
②舌運動によって食塊を右下の臼歯の乗せます。
③右側の側頭筋が収縮して舌によって右下の臼歯に乗せられた食塊を右上の臼歯にぶつけるようにして咀嚼が開始されます。 - 過去の体験から学習された運動パターンによって、咀嚼のリズムは千変万化します。
途中から不随運動の要素が入ってきますので、【食べられる】と判断された場合は、飲み込むまで咀嚼運動は中断しません。
ヒトの歩行運動によく似ていますね。 - 咀嚼運動が開始されると右側で咬んでも左の側頭筋・外側翼突筋も参加してきて全体が活発に活動し始めます。
両手を側頭部にあててガムを咬むと手のひらに筋肉の動きが感じられると思います。
大切なことは咀嚼運動の始まりが下あごの反対側から起こると言うことです。 - この咀嚼運動の仕組みが、【噛み合わせ】がズレたときに、どのようにして機能回復を図るかの重要な鍵になります。
- ヒトの体型は非常にばらつきがあり、顎関節にも同様の変化が見られます。
いままで説明した咀嚼運動いいかえると顎運動のパターンが当てはまらないケースは実は数多く見られるのです。
―― 正常な顎関節の模式図 ――
- 正常な場合はくいしばったとき(中心位)では関節頭(関節顆頭)が関節円板の中央の凹みにはまり、なおかつ関節の前壁の堅固な骨質に密着している。
- 前方に顆頭が移動(前歯が切端で当たる)したときや開口したときも顆頭から関節円板は離れないで連動する。
- この顆頭と関節円板がでたらめに動き出すと、カックンという音(クリック)が出たり、ヘルニア状態になると口が開かない/閉じられない(オープン・クローズドロック)といった異常が出てきます。
- 関節円板の損傷(穿孔)の度合いによっては痛みが出ます。これは痛い!!!
24時間絶え間ない痛みにさいなまれるようです。
―― 関節頭が関節内で正常より後退したケース ――
そのレントゲン写真
―― その後退した歯列 ――
*模型ではわかりにくいですが、かなりの出っ歯さんです。
―― 両側Back右偏位? ――
―― 歯列は正常に見えるし、外見も出っ歯さんでないケース ――
―― この場合の顎関節のレントゲン像 ――
―― この場合の顎関節のイメージ像 ――
- 関節円板の位置はイメージ
- 正常歯列で関節が後退する場合は咬合高径が高いと診断される
- 咬合高径が高いと顆頭は関節から脱臼してしまうケースとこの症例のように後退してしまう場合も多い。
- 臨床症状の違い(姿勢・疼痛・感覚鈍麻など)も診断に使う
―― 反対咬合(受け口)のレントゲン像 ――
―― 歯列の模型 ――
- 上下の破裂の関係が逆転する
- 形質的なものは異常ではない
- このような顎骨のヒトは概して大型になる
- 歯牙の働きが複雑なので治療には細心の注意が必要
- 部分的な歯牙の反対咬合は非常に危険を孕んでいるので治療には要注意
(ロックははずすな)よく言われてます。 - 顎の中心位は特に変化はなく、普通にした状態から下あごを前方につきだしたのが受け口になるのとは違う。
―― 受け口さんの歯列模型 ――
―― 反対咬合の中心位 ――
- 歯列が上下逆転しているだけで、咬み込んだ時の顎関節での顆頭の位置は関節内に納まった状態である。
- このような関節の位置関係は上下顎の大きさの違いによって発生すると考えられる。
- 顎骨発育期に習慣性に下あご前方位で咬む習慣から発生するという主張もある
(―― 機能性の反対咬合が骨格性のものに変化する ―― と説明されます) - 反対咬合歯列との中間型ないし移行型と分類される咬合歯列もよく観察されます。
この場合は上下の個々の歯の接触状態が特殊な為、咬合の再構築は非常に困難な場合が多いです。
―― 結論 ――
- 顎運動は解剖学的・生理学的にかなり解明されてきています。
- 顎の関節円板の積極的な外科的処置も開発されつつあります。
(膝関節や肘関節の手術と同様に) - 顎の形態と歯列(歯牙の有り様)とレントゲン像と【噛み合わせ】がズレた時にでる。
不定愁訴色々な診断項目を総合判断しないと治療効果が望めないのは事実です。 - 症例によっては手が出せないつまりは治らないケースもあります。
- まだまだ解明されていない真実もあるやもしれません。
様々な咬合のパターンが解明される時には治療法も確立されるでしょう。 - 残念ながら、治療法の確立が無いのが、いわゆる『顎関節症』とよばれている病気なのです。
それは顎関節の実態が目で見えないことや咬合パターンが多すぎて一つの咬合理論で色々な症例に対応できないことが事実としてあり、
しかも、顎運動の要である顎関節を介して起こるからです。
このことが、顎関節がBLACK BOXと呼ばれるゆえんです。 - 補足しますが、【噛み合わせ】のズレで起こる不定愁訴は顎関節の異常が特に認められない雑音程度でも生じます。
『顎関節症』は【噛み合わせ】治療のなかの一部なのです。