噛み合わせの相談に遠方よりこられた方です。
アルトサックスを専攻しておられますが、顎がぶれて吹けない、ビブラート・タンギングができなくなった、楽器を吹いてもすぐにバテるという悩みを持っておられます。
頭痛や筋肉痛などの身体の異常の自覚はなく、日常生活においてはいたって健康体とのことです。
ビブラート・・・音の揺れ、音の振動を指し、感情表現をするために考案された手法
タンギング・・・リードに下をふれさせて音(息)の流れを止めたり区切る管楽器演奏の基本技術の一種
顎関節の診断では右偏位であることが認められました。
咬合高径は高くて左の顎関節は脱臼気味、立位の観察では右肩下がりと骨盤の右上がりが観察されます。
楽器が重いのか前傾姿勢で、のどの緊張が伺えます。
背面からの観察では背骨の歪みが明らかです。
彼女の歯の模型です。
歯列は問題無いのですが前歯が少し開いています。
むし歯や歯周炎は有りません。
この歯列に少し手を加えて右偏位を修正してみました。
治療前と比べて、姿勢の変化が明らかです。
*前傾姿勢が改善され、背筋が伸びた感じです。
背骨の歪みが随分改善されました。
本人はこの時点で「すごく楽に吹ける」と喜んでいました。
Thin-Lipの見本のようなアンブシャができました。
アンブシュア・・・マウスピースをくわえるための、口の周りの筋肉を含めた口や唇の形の事を意味する専門用語です。
シン・リップとファット・リップ・・・アンブシュアーの考え方の種類でオトガイ筋の使い方の違いで分けます。
シン・リップはクラシック演奏家、ファット・リップはジャズ演奏家に好まれる傾向にあるようです。
――― 結び ―――
- 楽器演奏という動作をする前に、顎関節の右偏位と左の顎関節が脱臼気味ということが姿勢の歪みをもたらし、普段の生活の中で体は右に傾き背筋は異常緊張していたと考えられます。
- 楽器演奏の場合は特に腹式呼吸が要求され、柔軟な横隔膜の運動は勿論の事ですが、姿勢維持に関係する全ての筋肉の異常な緊張を無くし、指や腕の運動がなめらかになるような緊張とリラックスのバランスが大変重要になってきます。
- 経験者ならおわかりですが、歌を歌ったり、楽器を吹くときは奥の歯は接触していません。
- 何故このような事が起きるのでしょうか?
それは体が歯をしっかり咬んだ状態(中心咬合位)での筋肉の緊張を覚えているからなのです。 - 何かで精神的に緊張してしまうと体がガチガチになりますね、
我知らずくいしばりがおこり、姿勢維持筋群から始まって全体の筋肉が固まってしまうのです。 - プロの演奏家でも練習100%本番80%で大成功という話をよく聞きます。
練習と本番では緊張の度合いが違うからでしょうか、緊張の中でなめらかな動きを発揮しての名演奏を聞くたびに、ジャンルを超えて世代を超えてヒトに感動をあたえる音楽という文化を持っていることに奇跡を感じます。 - 声をだして歌う場合でも、背筋を伸ばして美しい姿勢で歌う事が要求されます。
高音になればなるほどノドを開くようにしないとうまく声が出せません。
管楽器に限らず音楽を楽しく演奏する鍵は姿勢にあります。
姿勢を正すには【噛み合わせ】を大切にしていただきたく思います。